「かみのけが」
不意に泣きそうになる。
最近は、はげしく情緒不安定。




冬の海がみたい










・・・・かたんかたん・・・・かたんかたん・・・・
平日でしかも真昼間の電車はがらがらに空いていた。
新八は向かい合わせの(ボックス席というのだろうか)席を一人で占領している。周りを見回さなくとも、誰も居ないのがわかる。
この電車に乗ろうとなぜ思ったのだろうか。
いや、思わず乗ってしまったとしかおそらく言いようはない。
意識と身体は全くが切り離されていた。ぼんやりと、何の思考もない頭の中。電車の中にとびこんで、ぷしゅうとドアが閉まった瞬間、少しだけぞっとした。
それでもいまは、向かいの座席に足を乗せてぼんやりと外を眺めている。
都会の電車でボックス席はめずらしい、と思う。
そのクラシカルな電車の名前は知らない。どこへ向かっているのさえ全くわからない。
新八は自分の身体の起こした一種の反乱に戸惑っていた。
僕は学校へ行かなければならなかった。学校へ行って、授業を受けて、その後にアルバイトへ行って、そしてまた家へ帰る。そうしなければならなかった。毎日の常に。
電車は一旦止まった。
知らない駅の名前を告げる。
僕はこのままどこへいってしまうのだろうか。
こつんと窓ガラスに額をくっつけた。
いま降りて、引き返すためにはどうしたらいいのだろう。自分のもと居る街へ。学校へ。
身体は動かなかった。反乱はいまだに続いている。
目を閉じたら少し眩暈がした。
いつのまにか電車はまた、規則的な音を出して(それが新八を少しいらつかせた)動き始めていた。

ヴ・・・・・・・ヴ・・・・・・・ヴ・・・・・・・・
ポケットの中の携帯電話が震える。
ヴ・・・・・・・ヴ・・・・・・・ヴ・・・・・・・・
ヴ・・・・・・・ヴ・・・・・・・ヴ・・・・・・・・
電話だ。
新八は見知らぬ番号(携帯電話からではなかった)に躊躇して、それでもパチンと開く。
「・・・・はい」
ざわざわとした音。
「もしもし?」
大人しく耳を傾ける。
キーンコーンカーン
チャイム・・・
「・・・あ?志村?」
「・・・・・・・・・!」
「ちょっ、切るなよ!切んじゃねーぞ」
「・・・んーと・・・お前学校は?」
「・・・・あー・・・ちょっと風邪ひいちゃって・・・」
次はぁ〜剛田〜・・・・・・剛田〜・・・・・・・・・・
間延びしたような男のがなり声が大きく車内に響く。
「・・・・・・・」
「・・・お前どこいるんだ?」
「・・・わかりません」
「・・・・・・・・」
剛田。
「次の駅で降りてろ。金は?」
あ、お金・・・
「・・・・・足りないかも・・・」
「じゃホームで待ってろ。下手に動くんじゃねーぞ!」
ブツッ
勝手に電話がかかってきて勝手に切れた。
担任の坂田だった。
どうしよう。
つぎの、つぎ。
新八は再び目を閉じた。
寝過ごしてしまおう。
不思議と眠気はすぐに新八を襲った。


バンッ、バンッ
ガラス越しに激しい振動が頭に伝わる。
新八はガクンと首を落とした後にはっと目を覚ます。
目を開くと目の前に坂田が居た。
「わぁっ!!」
「せ・・・せんせ」
坂田はいつもの目の開ききってないような顔で窓を叩いていた。
新八は慌てて口の周りのよだれを拭う。



口の動きを辿る。(多分坂田はこう言っている)
新八は迷った。
違う。降りられないんだ。
ふるふると首を降る。
銀時はぴくりと眉を顰めた。
ぷるるるるるぷるるるるるぷるるるるるる
電車が出る。
新八は坂田から目を逸らしてそのまま目を閉じる。
(僕は・・・ばかだ)
(うん、いいよ。僕はばかで、どうしようもないし)
(もうどうなってもいい)
・・・っ・・っ・・っ・・がたんっ・・・がたんっ・・・かたんかたんかたん・・・・
緩やかに動き始めた。
もう初めて乗ってから何駅過ごしたのだろう。
ぽかぽかとした太陽の陽気と始めから少し暑すぎていた暖房のせいで、いくらか身体は汗ばんでいた。
「・・・・おいっ・・・」
はっとして見上げるとそこには坂田が居た。
「てめェ・・・」
「・・・遅まきの反抗期ですかコンニャロー」
少し息を切らせている。
新八はうまくまわらない頭のままぼんやりと坂田を見上げた。
「・・・あったけー」
白衣にシャツのままの坂田はぶるっと身体を震わせた。
そのまま新八のとなりにどかっと腰掛ける。
「あれ・・・先生・・・なんで?」
坂田は横目でじろりと新八を睨んで、新八の巻いていたマフラーを無理矢理外した。
「わ」
そしてそれを自分の首にぐるぐると巻きつける。
「・・・・・・・・・」
「・・・手袋使いますか?」
その前に坂田の手がべたりと新八の頬に触れる。
「ぎゃっ!」
「てめー、ホームで待ってろって言ったろー」
(冷たい・・・)
寒さから皺皺になった坂田の節張った手。新八はその手をとって無言で自分の両手で擦り始めた。
坂田は心の中で目を丸くする。
(やわっこい手・・・)
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・お前こういうこと普通にやってんの??」
「え?」
顔を上げる。
「いや、てゆーか、男同士でやんねーんじゃねーの?」
ふつう
「あ」
ぱっと手を離す。
「あー・・・うち姉上がずっとやってくれるから・・・だからつい・・・・」
「・・・あー、やっぱ変ですよね・・・男同士ですし」
心なしか顔を赤くしている。
「あ、いや・・・」
(あったかかった・・・)
銀時は自分の手をやわやわと握ったり開いたりする。電車の暖房は嫌になるほどききすぎている、とも。
「・・・んで」
「お前このままどうするつもりだったんだ?」
新八はぴたりと動作を止めて、そして言い澱む。
向かいの座席に乗せっぱなしだった足をすとんと下へ戻した。
「先生こそ」
「どうするんですか・・・授業」
かたんかたん・・・・・・かたんかたん・・・・・・
電車はどんどん自分たちの住む街から離れていく。
それが北なのか南なのか(西かも東かもしれない)、全くわからない。
「んあ」
銀時は新八のマフラーに鼻までを埋めて靴を脱いで、向かいの座席へと両足を投げ出す。
「教え子の確保も立派な教師の仕事なんだよ」
窓から外を見ると、古ぼけたまばらな民家や今は使われていない田んぼが果てしなく広がるのが見える。
どうせならば海を見たい
新八は少しだけ思った。冬の海を。
冬の海。
雪は降らないでいて欲しい。
(それだと演歌の世界になってしまうもんな)
「・・・・・・やべっ」
ガクンと坂田の身体が揺れる。
「ねみい・・・・・・」
ごしょごしょと目を擦る。
「・・・てゆーか・・あちい・・・・・・」
「マフラー外せばいいじゃないですか」
「・・・あ、いや」
「これはきもちいからいい」
(きもちい・・・)
坂田は新八に凭れ掛かった。
「3駅過ぎたら帰るからな」
3駅過ぎたら起こしてくれ
ということなのだろう。(たぶん)
すぐに坂田の寝息がマフラーから漏れてきた。
新八のあごに銀時の白い髪の毛がふわふわ掠める。
ふわふわ、ふわふわ
「こしょばい・・・なぁ」
「かみのけが」
新八は泣いていた。
じわじわと目頭に溜まる涙が一筋一筋鼻梁をつたって頬をつたって、顎から下へ落ちる。
ただ流れているだけの涙。
坂田の身体の重みが自分の肩を通して全身に広がっていく。
電車がまた止まる。
一駅目。
乗客が入ってくる気配はない。
新八は目を閉じた。
このまま寝過ごしてしまえればいいのに。
しかしさっきのような眠気は全く襲ってこなかった。
坂田の匂い。煙草の匂い。

(ありがとう)
(僕を迎えに来てくれて)
(ほんとうにありがとう)

暖房は流れ出る涙をすぐに乾かした。
新八は坂田に気付かれないようにその髪の毛にキスをおくる。二つ。
(僕は)
嗚咽が漏れそうになるのに右手で口を覆う。
(たぶん先生に迎えにきて欲しかった)
身体の反乱は突然に終わる。血液はゆったりと流れ始めていた。
思考は随分とはっきりとしていた。
(先生がすきだ)
・・・・かたんかたん・・・・かたんかたん・・・・
次はぁ〜野比〜・・・・・・野比〜・・・・・・・・・・
伸びやかな中年の男の声。
緩やかに電車はカーブする。
窓から見える風景に海は見えない。















1万ヒットありがとうございました。
皆さまのあたたかいお言葉や拍手などで元気を補充している次第でございます。
これからもがんばろうとおもいます。本当にありがとうございました。
3Z銀←新のつもりです。
夏に向けてこのお話が間に入った漫画を描こうと思っています。








































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