覗き見を告白

















「新八ー」
いつもの声が名前を呼ぶ。
新八はいつものように振り返った。
「あー、おかえりなさい」
すぐに視線を水にさらされた両手に戻す。
自分はどれぐらいの時間台所へ居たのだろう。曖昧だったがあまり気にはならなかった。
「どこ行ってたんですかー?神楽ちゃんは?」
銀時がすぐ後ろまで来ていることに気付いて、新八は少し体を強張らせた。
背後からにゅっと手を伸ばして銀時は流れっぱなしの水を止める。むきだしの腕が頬に当たった。
キュッー  (ポタポタポタポタ)
そのままこわごわと、新八の前で手を組むようなかたちで身体を包み込む。
背中に銀時の胸(腹かもしれない)が微かに触れている、そのような些細な抱擁だった。
新八は何でもない様に手を上下に振った。水気を切るためだ。(全神経は背中に集中していたが、それを
振り切るために手は何度も振られる)
銀時が何かを言いあぐねている。
それは純粋に新八にも伝わっていた。
その間が息苦しくて、新八は咄嗟に濡れた自分の手を銀時の服に擦り付けた。
それに対して銀時が何かを言ってくれるのを期待したが銀時は何も言わない。
拍子抜け。新八はそう思った。
(何か言ってよ)
(調子狂うなあ)
新八はいっそあのことを聞いてしまおうか、と思いついた。
射精後の妙に上がっているテンション、それもきっと加担しているのだろうが。
たたったたったたったたったたっ
ずっと蛇口から水が、一滴ずつ規則的に漏れている。
(もったいない・・・)
新八はずっときっちり蛇口を閉めてしまいたい、と思っていたが銀時は全く気付いていないようだった
先程から目の前で組まれている手の親指をくるくると互い互いに回している。
「・・・銀さんは、僕のどこが好きなんですか」
決心も何もせずに口にした。決心なんて曲げられるためにあるものだ。(と少し軟弱な自分はそう思う)
ずっと自分の中でぼんやりと漂い続けられていた疑問。
僕には良いところなんてどこもないのに。
回されていた親指がぴたりと止まった。
「んー・・・・・・・・・・・・」
間ができる。
すぐに何かかしら答えてくれるかしら、と少しの期待は脆く崩れ落ちた。
「んー・・・・・・・・」
この間は非常に窮屈だ。
いっそカラダが目当てであるとか、それでも良いから答えは欲しかった。
何か自分の存在を明確にしてくれるような、そのような何かが知りたかった。
しかし、新八は小さく溜息をついた。
(でもカラダ、とか言われたらちょっと嫌だよね)
16年も生きて入ればどんなに恋愛に疎い新八でも好ましくない恋愛の噂の一つや二つ耳にしている。
なぜだか目の奥がつーんとする。新八は目を閉じてやりすごそうとした。
「・・・なんつーか・・・・・・・お前じゃなきゃだめだったからかも。いろいろ」
小さな声で、呟くように銀時がごちる。
新八はぱちっと目を開いた。
それは、一体どういう意味だろう。
いまだに蛇口からは水が滴り落ちてくる。
(いろいろってなんだろう)
(いろいろ・・・)
「お前さんはどうなのよ」
突然矛先は自分へと向けられる。
銀時は新八をより自分に密着するように抱えなおした。
皮膚も吐息も声も匂いもその存在もぐんっと近くなる。
新八はごくりと唾を飲み込んだ。そういえば、喉がずっとからからだった。
「銀さんのこと好きか?」
いつかもあったように銀時が聞く。新八はあの時(銀時と初めて会ったときのこと)のことを思い出した。これは茶化しているつもりなのだろうか。
聞こえる声だけではその真意は全くわからない。
「・・・・・・・・・えー・・・・・・」
「あー!やっぱいいわ、言わなくて」
少し焦って銀時は訂正する。
「は?」
「あー・・・」
「・・・じゃあ、やっぱ言って」
新八は少し笑った。
「何スか、それ」
そしてすぐに口籠る。
「いやー・・・」
「まぁ、好きか嫌いかって言われたらー・・・・・・そりゃ好きですけど・・・」
目線を下へ向けるとシンクに小さな水溜りができていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
後ろから抱き込まれているせいで銀時の顔が全く窺えない。
「・・・・・・そーかィ・・・・」
また小さな沈黙。今日の銀時はどこかよそよそしい。
腕の中にすっぽりと居る小さな新八でもそれは感じていた。

「俺、見ちゃったんだよねー」
突然だった。
何を、と問いかける前に銀時は素直に白状する。
「お前が一人でヌいてるとこ」
世界が止まってしまうまでたっぷり30秒はかかった。
銀時が何を言わんとしているのか、それを理解するためにかかった時間だ。
そして30秒後。
「・・・・・・・・・え・・・・・・・・・」
頭上で銀時は喉を鳴らして、心底おかしそうに笑った。















































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