熱帯夜









新八はごろりと寝返りをうつ。
今日何度目かわからない寝返り。首からは汗が気持ち悪く伝った。
「・・・・・・・暑い・・・・」
目を開けるとぼんやりと神楽の背中が見える。銀時はいない。
新八はのそりと起き上がった。汗で寝巻きが貼り付く感触に顔を顰める。
立ち上がって襖を開けた。
布団のある和室よりは幾分か涼しい風が流れ込む。それでも暑いものは暑いのだ。
新八は静かに襖を閉めると台所へ向かった。
暗闇の中で冷蔵庫のブウンと唸る音がやけに響く。上の冷凍室を開けて氷を一つ口へ入れた。そのまま冷凍室から流れる冷気に顔を埋める。
「あぁ〜」
すずしい〜
もう一つ氷を口に入れてドアを閉める。
乾いた氷が唇の裏にはりつく。
それに構わず新八は冷蔵庫に背を凭れかけさせるかたちでぺたりと座った。
冷蔵庫の吐き出すぬるめの温風に対して、背中越しに伝わる壁の温度はとても冷たかった。
床も随分と冷たい。
(静かだな)
かぶき町はいかがわしい繁華街に位置しているために随分と夜は騒がしい。
それでも台所までその声は届かなかった。
ここだけ隔離されているみたいだ。
新八はタイルのかたちどおりに指で四角をなぞる。
いまだ大きな氷が右から左へ移動するたびにカポッと鳴る。
新八はごろりと横になった。
(ここで寝ちゃおうかな)
銀時は帰ってこない。
目を瞑った。
(またすまいるかな)
姉の働くいかがわしい店だ。
そこで女の肩でも抱いているのだろうか。
新八は眉を顰めた。
(あんなことまでしといてさ…)
押入れで過ごした晩。
新八はここでぼおっとなった。ぼおっと。
頬をタイルにくっつける。冷たさが心地よかった。
(なんか雰囲気に流されちゃったっぽいけど)
人生に後戻りはきかない。
しかし、あの晩以来(二人きりになるとたまに手をつながれたり膝枕をさせられたりするが)銀時は今までと全く変わらずに自分に接した。
(何も無かったみたいだ)
本当にそう思う。(根に持つようで肝心なことは忘れっぽいのだ)
(どきどきしてんの僕だけなのかなぁ)
銀時といるとひどく緊張する。
必死で普通っぽく振舞ってはいるが。
(なんだよもう)
新八はがばっと起き上がって冷凍庫を開ける。
ガラガラガラ
同時に玄関も開いた。
それを銀時だ、と新八はわかっていたので振り向かなかった。それでも心臓が跳ね上がった。
静かに冷凍庫を閉める。口には氷を含んだ。
(気付かないで)
さっさと寝ちゃってくれ
新八は息が漏れないように手で口を覆う。ゆーっくりとしゃがんだ。
ここで銀時に見つかるのが億劫だった。
緊張するのはあまり好きではない。
目を閉じる。
心臓の音で銀時の気配が消された。
ドン
突然背中に冷蔵庫のドアが当たる。
「いだっ!」
「わっ!」
ばっと見上げると冷蔵庫の光に照らされた銀時の顔があった。
「・・・何やってんの?お前」
しゃがんだまま前へ移動する。
「・・・あ、いや暑くて寝れなくて・・・」
「びっくりさすなっつのー」
酒の匂いがぷんぷんする。
銀時はゆっくり中を物色して何も取らずにドアを閉めた。(まず、何もないのだ)
「・・・なに?銀さんを待ってたの?」
前のめりにしゃがむ新八に合わせるように銀時もしゃがんで顔を覗き込む。
(酒臭い)
ガチっと氷を噛み締めると氷は三つになった。
「そーかい、銀さんを待ってたかい」
しんちゃーん
銀時はくくっと笑って新八に抱きついた。
(うわ)
バランスを崩して尻餅をつく。
「ちょっと!」
新八が文句を言う前に唇を二度三度啄まれる。
「久しぶりだな」
銀時が下を向いてくっと笑う。新八はまたぼおっと赤くなった。
「ちょっと口開けて」
大人しく従うと今度は深く口付ける。
新八は目をぎゅうっと閉じた。
(このキスはわけわかんなくなる・・・)
銀時の舌がゆっくり新八の口内を探る。
ふと氷に当たった。
銀時は氷を舐める。
(何だこれ)
(飴?)
氷を一つ盗む。
(つめてぇ)
銀時はそっと新八の寝巻きの袂から中へ手を這わせた。
(?!)
新八はびくっと身体を強張らせる。
銀時を跳ね除けようとも重く圧し掛かられてるためにそれは叶わない。
口の端から飲み込めなかった涎が喉へと伝う。
(嫌だ…)
銀時はゆっくり新八の平坦な胸を揉みしだく。
(やだー…)
勢いよく横を向く。ちゅぷっと銀時の舌が口から抜けた。
「やっ!ちょっどこ触って」
銀時に背中を向けて逃れようとする。
銀時は構わず後ろから抱き締めるかたちで新八を逃さない。
「やだって!」
うなじの辺りに顔を埋める。軽く噛むと新八の身体はびくっと跳ね上がった。
「銀さんっ!・・・ちょっ!」
銀時は黙って素肌を弄る。簡単な寝巻きは肩の辺りがぐずぐず抜けた。
外に露出する肌に口付けると汗ばんでいるそれは簡単に吸い付いた。
(やべ…)
(止まんね…)
新八はもはや涙目だ。
(やだ)
ちゅっと音を立てて唇は下がっていく。
(やばい…!)
(……勃っ…ちゃう!)
「うっ…」
銀時は動きを止めた。
「くぅ…うっ」
声を殺してしゃくりあげる。急いで口を隠した。
苦しい。それでも涙が止まらない。
「…泣くなよ」
後ろからぎゅっと抱き締める。
右肩に額を押し付ける。全体重がのらないように片方の膝は立てた。
「泣くほど嫌なら本気で嫌がりゃいいじゃねぇか」
新八は目を拭った。洟をぐすっとすする。
「だって…っ」
「僕はっ…女じゃないから…」
(胸もないし)
「んなこたぁわかってるよ」
銀時は鼻で笑った。吐息が耳にかかってぞくぞくする。
それならもう何も言えない。
新八は言葉につまった。
半端な股間をもじもじと動かす。
「怖いか?」
「いや…ちょっと…、あ、けどそうじゃなくて…」
下を向くとちょうど銀時の腕に唇が当たった。
上を向いて目線だけでも下へ向ける
「何だよ」
うなじに唇を当てる。そのまま軽く噛む。
「…だから僕は飲み屋のねーちゃんじゃ…」
銀時は目をまるくした。
そしてすぐに信じられなさに顔をしかめる。
「お前なー…」
「飲み屋のねーちゃんでいいなら飲み屋のねーちゃんにお願いするっつの」
「俺ァなぁ、わざわざ茨の道を歩いてだな……なんでそんな鈍臭ェんだよてめぇはよー…」
無理矢理新八の頬に口付ける。
「こっち向け」
優しくキスをする。
なぜこんなにも安心してしまっているのか新八はわからなかった。
また涙が出そうになった。
「ぐだぐだ考えてんじゃねーよ」
涙の跡をぺろりと舐める。
「しょっぺぇ」
「…だから…酒臭いんだって…」
銀時とは目を合わさずに新八は言う。
頬が熱かったから照れているのだと簡単にわかった。
「もう飲まねーよ」
額に口付けながら銀時はつづける。
「嘘ばっかじゃないですか」
新八は笑った。
幾度と無く繰り返されたやりとりだが銀時は懲りずに繰り返す。多分これからもずっと。
「んだとコノヤロー」
股間をぎゅうっと握る。
新八は小さく悲鳴をあげた。
「あ」
それは男同士の無邪気な戯れのつもりだった。
「勃ってら」
銀時がにやりと笑う。
新八は恥ずかしさに必死で身体を縮めようとした。
それでも銀時は新八の股間から手を離さない。
「お前も、良かったんじゃねーのかァ?なぁ」
身体を横に向かせる。
(やばい…)
(銀さんはそういう人だった…)
股間をぐにぐに揉む。
「いつもどうしてんの?」
こういうとき
耳元で囁く。
「…離してください…」
(やだって言ってもやめてくれないんだ)
銀時は無視して新八の耳を甘く噛む。
「やっ…ちょ変なとこ噛むなって…!」
中途半端な嫌がり方は通用しないことが新八にもわかっている。
寝巻きの合わせ目から手を差し込んで直接握りこんだ。
「もう大人のじゃねーか、お前のも」
「まー俺のには負けてっけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!」
夢精は何度かあっても自慰の経験は無かった。
「えっ!…なにっ?!・・ちょっと…!」
ゆっくり扱く。新八のペニスはすぐに銀時の手の中で膨らんでいく。
「やっ…ほんとに…離せって・…うっ…」
(なんか…!)
(変!変っ!)
銀時は後ろから新八の首元に何度も口付ける。
口付けるたびに汗の味がした。
とろとろ出る先走りを指で戻すように擦りつける。
「ひっ…」
新八は口を手で覆った。
(!変な声で!た!)
(なんで?!熱い…!変!)
「声出せよ」
もう片方の手で新八の手を無理矢理外す。
手の動きを早める。
「だっ…神楽ちゃん起きちゃうっ…」
床のタイルに顔を押し付ける。
(…たまんねーなぁ)
「床汚ねーから俺にしとけ」
口付ける。初めから深く舌を入れる。
「んんっ」
それでも声は小さく漏れた。(それもひどく淫猥に)。
(変だ…こんなの…!!)
後頭部がじんじん痺れる。
目から涙が滲んだ。
銀時はぎゅうっとひときわ強く握った。
「…ふっ…くぅっ…」
(…なんか…!!)
(出るっっ!!!)
静かに吐精した。
新八は目を見開いて銀時から唇を離す。
しかし銀時は名残惜しそうに新八の唇を追った。
触れるだけで口付ける。
「ぼく…」
「あ・・・」
銀時の汚れた方の手を自分の寝巻きで拭う。
恥ずかしさで死にそうだった。
「いいよ。これから風呂入っから」
新八の手を握る。
「良かったろ?」
銀時がにやにやしながら聞く。
新八は大げさに溜息をつく。
「…(聞くなよ…)」
(あ…)
(やべ…)
銀時はがばっと起き上がった。
「風呂はいんねーと」
新八も起き上がって床にぺたりと座る。
呆然としていて寝巻きが肌蹴たままだ。
銀時は暗い中でも目立つ白い太ももや、先ほどまでしつこく吸い付いていた肩元を見て喉を鳴らした。
「お前も一緒に入る?」
(今一緒に入ったらどうなっちまうかわかんねーけど)
新八は首を振った。
「…・…寝ます」
そっか
銀時が心なしか前かがみで歩くのに新八は気付かなかった。
尻が直接床に当たっていることにも気付かなかった。
今日が熱帯夜であることも忘れていた。
とりあえず、ぐずぐずになっている寝巻きを直す。
(わけわかんなかったけど)
冷蔵庫がブウンと音を出したのにはっとした。
(気持ちよかった…かも…)
ゆっくり立ち上がって冷凍庫を開ける。
(なんで上にあるんだよ)
氷を二つ口に含んだ。茹った頭を冷やすために。
案の定入りきらずに口内の色んなところに貼り付いた。















































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